ここ数年、福祉分野では「障害者」という漢字表記の撤廃が騷がれている。「害」の字がネガティブな印象を與える、ということであり、「障がい者」と表記を改めた自治體もある。ただ法律上は「障害者」のままであり、交ぜ書きへの抵抗もあってか「障がい者」の表記は未だコンセンサスを得るまでには至っていないとみられる。
この問題について語られる時に、以前は「障碍者」と書かれており、「碍」は「害」の意味とは違う、とされることがある。辭書によると「碍」は「さまたげる」という意味で、現在でも電線の絶縁に用いられる器具に「碍子」の名が用いられている。
ではなぜ「障碍者」は「障害者」に改められたのか。それは、戰後すぐ、混亂の中行われた漢字制限施策に端を發しているのである。
昭和21年11月16日内閣告示第32号で、時の宰相吉田茂の名において「当用漢字表」が定められ、「現代國語を書きあらわすために、日常使用する漢字」として1,850字が示された。これは「法令・公用文書・新聞・雑誌およぴ一般社会で、使用する漢字の範囲」とされ、「この表の漢字で書きあらわせないことばは、別のことばにかえるか、または、かな書きにする」ことを指示しており、漢字制限の意圖が色濃いものであった。
(昭和56年にこの告示は廢止され、現行の「常用漢字表」に改められるが、これは「一般の社会生活における、現代国語表記上の漢字使用の目安」とされており、漢字の數を制限するという趣旨は薄くなっている。)
この「当用漢字表」に「碍」の字は含まれなかったのである。その結果「障碍」は「障がい」と書き改められることとなったわけだが、やはり漢字假名交ぜ書きは当時の人人にも受け容れ難かったようで、昭和31年7月5日に国語審議会は「同音の漢字による書きかえ」について文部大臣に報告を行うこととなる。これにより「障碍」の「碍」は当用漢字である「害」に書きかえられ、「障害」と表記されることとなった。
これが、現在に至る「障がい者」表記問題の直接の引き金となったわけなのである。
(次囘に續く。漢和辭典と首っ引きで疲れちゃった。舊字體使用のポリシーについてもあとで述べます)
2007年9月19日水曜日
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